うるう年の2/29。小田急線に現れた「呻きじいさん」。逢えるのは4年に1度?

家に帰るため、新宿駅から小田急線に乗ったんですね。

車両は人が少なく渡が座っている列は渡だけ。

向かいには若者が2人とスーツ姿のサラリーマンが1人座っておりました。

渡は本をカバンから取り出し読む。

昼下がり、人が少ない車両の中、読書。これがなかなか気持ちが良い。

電車が動きだし、揺れが心地よく、太陽も暖かく、本もスイスイ読める。

なかなか幸せな時間。

しかし

電車が4つ目くらいの駅に止まった時。

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

という低いうめき声とともに、初老の男性が入ってきました。(以下、呻きじいさん)

黒サングラスにベレー帽。タイトなパンツにカラフルな靴下。そして片手にチューハイ。

割りかしオシャレなんだけど、その低い声と存在感に

皆一瞬見て、サッと見線を下に落とす。

「目を合わせてはいけない」

呻きじいさんにはそういう力がありました。

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

呻きじいさんはゆっくり歩き、渡の隣の隣に座りました。

ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛

視線を外しているので何をしているのかハッキリ分からない状態。ただメモ帳を取り出したのは分かった。そして、呻きじいさんの呻き声は低く大きい。

カタン。

低い音の中で高い音が響く。チラリと目を動かすと、呻きじいさんがチューハイを自分の足元に置いた音。

ん゛ん゛ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

そこからゴソゴソ動いているのだけど、確認できず。

とにかく本に集中しよう。

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

本にあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛集中できない!

完全に興味が呻きじいさんにいってしまった渡。

そして、このまま行くと呻きじいさんが何かしてくるんじゃないか?という恐怖。

とにかく最寄りの駅にたどり着くまでは渡よ、存在感というのを消すんだ。消すんだ。消すんだ。

なんて考えていたら、また別の駅でおばさんが入ってきて渡の隣に座ったのです。

よし!渡とおじさんの間に人が入ったおかげで幾分か不安が和らぎ、また本に集中することができるぞっと思って本を開き直す。

集中力を取り戻し、本の世界に入りそうだなーなんて時、

電車が次の駅に着いた。

呻きじいさんの向かいに座っていたスーツ姿のサラリーマンが立ち上がり降りようとする。

その時、

呻きじいさんが持っていたメモ帳を破り、その紙をサラリーマンにパッと差し出した。

一瞬の出来事だけど渡の目はそのメモ帳を追う。

なんと、その紙には

サラリーマンの

似顔絵が書いてありました。

黒い筆ペンで書いた似顔絵。神経質そうで固い表情のサラリーマンの顔の似顔絵。

しかし、サラリーマンは気づかなかったのか、超怖かったのか?分からないけど、差し出した紙を無視して電車を降りていってしまったのです。

呻きじいさんは「あ゛。。ん゛ん゛ん゛!」

なんて残念そうな音を出しました。

「低い音で呻く怪しげなじいさん」という渡の認識が、「いきなり人の似顔絵を書いて渡す新手アーティスト」に変わりました。俄然興味深々!

と、思った矢先、

呻きじいさんがサラリーマンに渡し損ねた紙をしまいそこねて落としたのです。

その紙は隣のおばさんを通過して渡の足元に落ちました。

渡はそれを拾い上げ呻きじいさんに返しました。

さっきまで残念そうな顔で呻いていたおじいさんの顔がパッと明るくなり

「お!ありがと!」

と渡にお礼を言いました。

「いえいえ」なんて渡も返事をし、また本に集中しようとしたら、

ものすごい視線を感じるんです。

これは。。。呻きじいさんの視線!

意識の中で、呻きじいさんが渡をロックオンしたことがわかるのです。

横目でチラっと確認すると、またメモ帳に書き始めている。

もうこれは間違いないぞ。呻きじいさん、間違いなく渡の似顔絵を書き始めているぞ。

なんて、思ったらもう本なんて読めません。なんかこっちも微妙に呻きじいさんに見えるような感じで体勢を変えたりして、よくわからない協力なんかしていて、

「次の駅で降りるけど、間に合うかな?」とか「マスクしてるから書きづらいのかな?外そうかな?でもそれだと露骨すぎるか(なにが?)」なんて考えたりしている間に最寄りの駅に到着。

ドキドキしながらカバンをもち、立ち上がると、

呻きじいさんがピッと紙をちぎり、渡に差し出してくれました。

なんと裏まで!

渡「すごい」

呻きじいさん「よかったらね」

渡「ありがとうございます」

呻きじいさんはニコッと笑って、右手をあげて「はいっ。よろしくね!」と言いました。

電車を降りる渡。去っていく電車。

本当に?いたのかな?って思うほど、不思議な時間。

でも、間違いなく紙はあって、しかも書かれた絵の渡はマスクしてないし、裏には正面からの絵も書いてあるし。上手いか下手かとかわかんないけど、なんかすごいわ。

読んでた本に挟み、本を閉じる。

なんか、心が暖かくなり、笑顔になる。

あの車両に乗らなかったら会ってなかったんだよな。

サラリーマンが紙を受け取っていたら、落ちた紙を渡が拾わなければ、こんなことにはなっていないんだよな。

こういう一期一会。素敵じゃないか。

そしてあの呻きじいさんはその後も誰かを書き続けて、いきなり渡したりしているんだろうか。

それってスゴい楽しいよなあ。嬉しいよなあ。なんか良いよなあ。

なんて思ったうるう年。2/29のこと。

でも、呻きじいさんが書いた日付は

2/26

呻きじいさんなんでや~!!

ほなー。

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