アンソニー・ホプキンス主演の「ファーザー」は認知症になった世界を体感するような作品になっていた。
作品の構成として不安になるような描写なのは、多くの人が記憶がなくなっていることに対して強い不安を覚えるからだろうし、その不安感はアンソニー・ホプキンスからビシビシと伝わってくる。やはりモンスター俳優。
役名もアンソニーだし、年齢としてもいつそうなってもおかしくないだろうに、いったいどんな気持ちで演じているんだろう?っておもう。
調べたら役のアンソニーと本人が同じ誕生日という設定にしていたりして、半分ドキュメンタリーみたいな作りになっている。
相当なる器がないと演じることが難しいんじゃないか?って想像する。
そらアカデミー賞史上最高齢で主演男優賞賞を受賞するわ。
アンソニーの娘・アンを務めたオリヴィア・コールマンもめっちゃんこ良かった。ものすごいケアしてるのに自分のこと忘れてしまうし、いっつも妹のことばっかり話すし褒めるし。その苛立ちやなんとかしないとっていう愛情や自分の人生を生きたいと思うことの葛藤みたいなものがこれまたバシバシ伝わってくる。
エレベーターで父と2人きりで「なんだその髪型は?」と聞かれ「え?変?」と返して「素敵だよ」と言われたときの嬉しそうな表情が秀逸だった。
「すべての葉がなくなっていくようだ」
「自分の身体を横たわらせる場所もわからない」
「ママに逢いたい。帰りたい」
手続き記憶もなくなって、とんでもない不安感が強くなり、自分が知的だと認識していたじいさんのプライドが崩れていく最後。それにたいして介護する人がアンソニーを抱きかかえながら子供に言うように
「着替えて、公園を散歩しましょう。良い天気は長く続かないのだから。
帰ってご飯を食べて、お昼寝して、起きてまだ天気が良かったらまた散歩しましょう」
その尊さに涙がでた。
また全編通してワタリが思ったのは「やはりこの世のすべては脳が見せている」ということ。
嘘というとすこし語弊はあるが、ぜんぶ幻なんだというのは唯識論を勉強したり、また即興芝居をやっているととっても納得できる。
だからボケていくことも、そのめっちゃくちゃな世界をできるだけ楽しめたらいいなっておもうし、その現象からも本当にこの世は幻やんって思う。
もちろんその時になってみないことには自分がどんな気持ちになるのか本当にはわからないのだけど。
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