蝋人形の呪いが解ける日を願ってる

夜ご飯を家の近くにあるお店でテイクアウトすることにした。
ツマミちゃんがお気に入りのタコライスが美味しいお店である。
自転車でいく。お腹はペコペコ。お店の前に自転車を止める。

ちょうどその時にお店から店員さんと思われる人が出てきた。
手にスマホをもっていたから休憩なのかもしれない。

ワタリがお店に入るときにその店員さんと目が合った。

なんとなく頭の中で期待していたのは「あ、ありがとうございます!いらっしゃいませ!」みたいな言葉。

しかし現実は全然違った。

店員「・・・・」
ワタリ「・・・・」
店員「・・・・・」
ワタリ「!!?」

めっちゃ目が合ってる。

しかし期待した声は聞こえず、ワタリの目に映っているのは、坊主に近い髪型で痩せ型の男性が完全にワタリにメンチきっている姿なのである。

ワタリのことを野盗かと思ったのかもしれない。だとしたら合点がいく。いくか!

そのメンチの切り合いはワタリの「会釈」で終結。なんで会釈してしもうたんやろ。

お店にはいる。
はいって5歩くらい奥にいったところ。カウンターの中に若い女性の店員さんが立っていた。

1歩。2歩。3歩。4歩。え?なんで?

こっちをみているんだけど、

完全に無視。
店頭のアンちゃんみたいな「メンチ」でもない。そもそも目が合っていない。

えっと・・・蝋人形かな?

「蝋人形にしてやろうか!」と閣下に言われてしまったんかな?

そんなことを考えていると5歩過ぎてしまった。
ワタリはその蝋人形を通り過ぎてお店の奥にいるもうひとりのなにか下を向いて作業をしている女性店員さんの前にいた。

「・・あっ!いらっしゃいませ!」

と下を向いていた店員さんはワタリを見るやいなや声をあげた。

あぁ人間がいた!と、安心した。

「ごめんなさい。キッチンの子が戻ってきたんだと思って・・・!油断しました!」とその店員さんは努めて明るく言う。

その声の大きさや明るさや笑顔で、時間が動き出したように感じた。

しかし、その中でも蝋人形さんは変わらず蝋人形さんだった。動きがない。

明るい店員さんに「テイクアウトしたいんですが~」というと、さっきの閣下によって蝋人形にされてしまった子のほうを指差して「あちらでお願いします~」といった。

ワタリは数歩戻り、蝋人形さんの前にいく。
明るい店員さんもこちらにくる。
そして細かく「ここで注文を書いて・・書き方は・・うん、そうそう」とか「PayPayできたら金額の確認はしてね・・・」とか指示している。

ワタリは、メニューをみて注文して、お会計。

しかし、その間一度も蝋人形さんの声を聞くことはなかった。

メンチを切っていたアンちゃんが戻ってきて料理がはじまる。

その間、ワタリはその蝋人形さんのことを考えた。

たぶん、今日がバイト初日みたいな状況なんだろうと。
元気で、新しい職場にドキドキしつつも、明るい店員さんのエネルギーによって空気が和らぎ、すぐに緊張もほどけてきて、馴染んできたころに

デーモン閣下がご来店。

そのあまりのエネルギーに飲まれてしまって声がでない状態で接客。

「吾輩はコーヒーを所望している」
「あ・・・・はい」
「なに?」
「かしこまりました」
「聞こえない」
「あ、すいません」
「なんだって?」
「コーヒーですね」
「おい」
「はい」

「お前を蝋人形にしてやろうか」

閣下のお怒り。

かくしてバイト初日にして蝋人形にされてしまった彼女。
それは大変だな・・・。だとしたら蝋人形にされたのによくやってるよな。
なんてことを考える。

しばらくして

「おまたせしました」

という声がした。

その声のほうを見るとなんと蝋人形さんだった。タコライスがはいった袋をもっていた。

喋ったのか?本当に?喋れるのか?

マスクをしているため、本当に彼女が発した声なのか判断つかず。

き、聞きたい。もう一度!声出してほしい!

声が聞こるとしたら、タコライスの受け渡しのときだ。

通常で言えば必ずくるセリフ「ありがとうございました」がくるはずだ。

ササッととらずに、できるだけゆっくりと彼女がもっている袋をもらった。

タコライスがワタリの手に渡ったその刹那。

「ありがとうございました!!」

後ろにいたメンチのアンちゃんのものすごく大きな声が店内に響いた。

蝋人形さんの目を見る。空洞だ。あぁ・・蝋人形さんの声は聞こえなかった。

彼女の魔法が解ける日を願う。

ちなみにタコライスは

めっちゃ美味しかったよ。

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